ハウンドトゥース柄。
それは白と黒のギザギザが交差する、視覚に残る模様。
しかし、この柄をめぐる名づけは、東と西でまったく異なる景色を描いている。
たとえば日本では、この柄は"千鳥格子"と呼ばれる。
波打つような模様を目にして、日本人はそこに空を群れ飛ぶ小鳥の姿を見た。
川辺に佇み、遠く旅立った人を想いながら聞こえてくる千鳥の声。
万葉の昔から詠まれ続けてきた小鳥は、ただの鳥ではなく、孤独に寄り添う存在だった。
だから千鳥格子とは、ただの柄ではない。
そこには風景があり、詩情があり、心の揺れがある。
いっぽうで、この柄が生まれた英国では、別の名前が与えられた。
ハウンドトゥース=猟犬の歯。
形が似ているから…というのは事実だが、それだけではない。
ハウンド、つまり猟犬は、英国の上流階級にとって狩猟文化の象徴。
力強く、獲物を逃さぬ牙。
その鋭さと緻密さは、英国紳士のハンティングジャケットやツイードにふさわしい模様だった。
つまり、同じ模様を前にして、
日本人は哀愁を見つけ、イギリス人は強さを見た。
文化が変われば、模様の意味も変わる。
そして名づけられた言葉が、その柄の運命を方向づけていく。
千鳥格子は、恋文のように。
ハウンドトゥースは、紳士の装いのごとく。
けれど現代において、この柄はそのどちらにも属さない、新しい表情を持ちはじめている。
たとえばモードの世界では、白と黒のコントラストを反骨の意志として纏い、ストリートでは、伝統をひねり、遊ぶための柄として引用される。
つまりハウンドトゥースを着るということは、かつての哀しみにも、かつての気高さにも敬意を払いながら、それを自分のスタイルで再解釈するという選択なのだ。
詩的であり、強くもある。
クラシックであり、同時にアップデートされた存在。
ハウンドトゥースは、着る者の内面を映し出す“静かな意志表示”なのだ。
今、あなたがその柄を選ぶなら。
それは、どちらの名前を思い浮かべるだろう?
千鳥か。猟犬の歯か。
あるいは、そのどちらでもない自分だけの物語かもしれない。
JACKET:DOLMAN by ANATOMICA(L)
TOPS:SKIPPER POLO by ANATOMICA(4)
BOTTOMS:BAKER PANTS - MADE IN USA by MSG & SONS(34)
SHOES:PUNCHED CAP TOE KID LEATHER by ALDEN(10D)