「美しさは求めるものではなく、働きのあとに生まれるものだ」
そう語ったのは、民藝運動を支えた陶芸家・河井寛次郎である。
彼にとって美とは、意識して追いかけるものではなかった。
日々の労働や暮らしの中で、無心に何かを“為した”あとに、ふと立ち現れるもの…。それこそが本当の美であると。
この哲学は、意外な場所にも宿っている。それが、アメリカ軍のジムシューズだ。
戦争という極限状況のなかで兵士たちが日々の訓練に用いたこの靴は、華美な装飾とは無縁で、素材もデザインも極めて簡素。しかし、その姿には不思議な引力がある。
ロゴもなければ色の遊びもない。あるのは、ただ動くための形。走る・跳ぶ・踏みしめる、そうした行為を支えるためだけに生まれた靴。
作り手が美を目指さなかったからこそ、逆に感じられる整然とした美しさ。まさにそれは、"用の美"。実用性の中から生まれる静かな美である。
河井寛次郎が言う「働きのあとに生まれる美」は、
このジムシューズにも確かに息づいている。
任務を果たす道具として、ただ黙々と役割を果たしてきたその姿は、気取らず、飾らず、しかし決して凡庸ではない。
現代の私たちがこの靴に魅力を感じるのは、その背後に人の営みが染み込んでいるからかもしれない。
無数の足音、汗、時間、そして使命感。それらが織り重なったこの簡素な靴は、まるで河井の器のように、使われることで真価を放っていく。
美しさはあとからやってくる。それはきっと、何かを一生懸命に為した証として、静かにそこに立ち現れるのだ。
JACKET:DOLMAN by ANATOMICA
TOPS:R.A.F SHIRTS by Arch
BOTTOMS:618 ORIGINAL by ANATOMICA
SHOES:US ARMY GYM SHOES by Der SAMMLER SOLO × ARCH