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▪️JACKET:1841 by ANATOMICA(L)
▪️TOPS : SKIPPER POLO by ANATOMICA(4)
▪️BOTTOMS:618 ORIGINAL by ANATOMICA(36)
▪️SHOES:PUNCHED CAP TOE KID LEATHER by ALDEN(10D)
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スキッパーシャツは、いつだって海から始まる。
それは船乗りたちの制服であり、労働のための服だった。
19世紀のフランス海軍、ブルターニュの漁師たち、塩と風をまとった彼らの身体に沿うように、ボタンのない襟は大きく開いていた。
呼吸しやすく、動きやすく、襟を立てる必要もない。命を預けた海の中で、機能と自由のせめぎ合いが服のかたちを決めていった。
スキッパーシャツの本質は、規律と解放の狭間にある。
軍服としての誕生が象徴するように、それは集団のために作られた。
だがボタンを外す必要すらないその襟元の開きは、個の呼吸を許す構造だった。
首を締めつけず、風を通し、皮膚に光を与える。
だからこそ、20世紀初頭、海から街へ、制服からファッションへと姿を変えても、その抜け感は消えなかった。
1920年代、南仏のリゾート地で、スキッパーシャツは労働の汗を知らない貴族の肌にも風を運ぶシャツになった。
ココ・シャネルが海軍の制服をバカンスウェアに取り入れたことで、スキッパーシャツは労働と遊び、均質と個性を横断する存在になったのだ。
そして今、誰がこのシャツを着てもいい。
たとえば、都市のざらついたアスファルトの上で、あえてボタンのないシャツを選ぶ人間。
たとえば、夏の夜、蒸れた電車の中で首元を開いたまま、肩肘張らずに立つその姿。
そこには一種の誇りがある。窮屈な社会構造のなかでも、自分だけの呼吸を確保するという静かな決意。
スキッパーシャツを着るということは、誰にも縛られないが、だらしなくもならないという矜持だ。
だってそれは、かつての船長が着ていた服であり、戦地の兵士が汗を流したシャツであり、リゾートの紳士が微笑んだ影を残すシャツでもあるのだから。
スキッパーシャツは、「自由」を語らない。ただ、風を通す。